概要
我々はヒューマノイドロボットにおける運動パターンの認識/生成の問題から知能への接近を試みるため,脳科学,認知科学,心理学など,学際的なアプローチでその実現手法を探り,ミラーニューロンとミメシス理論に注目した.現在脳神経科学の分野で注目を浴びているミラーニューロンは言語野に近い部位に位置する器官で,他者の行動の認識と自己の行動生成の双方において活性化されることが知られている[1].一方,ミメシス理論[2] では,見まねがコミュニケーションを通したシンボル生成の源であり,ヒトや類人猿の高度な知能はものまねから形成された,という仮説が提唱されている.これらの事実は行動の認識と生成,すなわち見まね学習の機能が脳のハードウェアに埋め込まれており,シンボル操作などの高次知能の基礎となっていることを示唆する.著者らは,これらのパラダイムにヒントを得て,シンボルを獲得,操作して,全身で行動するヒューマノイドの知能の構成論の研究を進めた.
この研究は大きく分類して4つのフェーズに分かれ,それぞれのフェーズで,成果を得た.
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隠れマルコフモデルに基づく行動と原始シンボルの相互発達モデル
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隠れマルコフモデルに基づく時系列データのキーフレーム抽出・認識・再生
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離散・連続ハイブリッド隠れマルコフモデルによる身体性を考慮した模倣学習
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行動認識・生成モデルの幾何空間における原始シンボルの発達と操作
詳細は
http://www.rdc.imi.i.u-tokyo.ac.jp/robotbrain/results/pdf/inamura.pdf
を参照.
- 稲邑 哲也,中村 仁彦,戸嶋 巌樹,江崎 英明 : ミメシス理論に基づく見まね学習とシンボル創発の統合モデル,日本ロボット学会誌,Vol.22, No.4, (掲載予定).
- Tetsunari Inamura, Yoshihiko Nakamura and Iwaki Toshima : Embodied Symbol Emergence based on Mimesis Theory, International Journal of Robotics Research, (In printing)
- 稲邑 哲也 : ロボティクスにおけるベイジアンネットの応用−実世界で活動するロボットのための経験的自律行動モデル−(解説論文),人工知能学会誌,Vol.17, No.5, pp.546-552, 2002.
- Tetsunari Inamura, Hiroaki Tanie and Yoshihiko Nakamura : From Stochastic Motion Generation and Recognition to Geometric Symbol Developement and Manipulation, Proc. of Int'l Conf. on Humanoid Robots (Humanoids 2003), 2003.
- Tetsunari Inamura, Hiroaki Tanie and Yoshihiko Nakamura : Keyframe Extraction and Decompression for Time Series Data based on Continuous Hidden Markov Models, Proc. of Int'l Conf. on Intelligent Robots and Systems (IROS 2003), 2003.
- Tetsunari Inamura, Hiroaki Tanie, Iwaki Toshima and Yoshihiko Nakamura : An Approach from Motion Generation/Recognition to Intelligence based on Mimesis Principle, Proc. of Int'l Symposium on Adaptive Motion of Animals and Machines, pp. SaA-II-1, 2003.
- Tetsunari Inamura, Yoshihiko Nakamura and Moriaki Simozaki : Associative Computational Model of Mirror Neurons that connects Missing Link between Behaviors and Symbols, Proc. of Int'l Conf. on Intelligent Robots and Systems (IROS 2002), pp.1032-1037. 2002.
- Tetsunari Inamura, Iwaki Toshima and Yoshihiko Nakamura : Acquiring Motion Elements for Bidirectional Computation of Motion Recognition and Generation, Proc. of Int'l Symposium. on Experimental Robotics (ISER2002), pp. 357-366. 2002.
- Tetsunari Inamura, Iwaki Toshima and Yoshihiko Nakamura : Acquisition and Embodiment of Motion Elements in Closed Mimesis Loop, Proc. of Int'l Conf. on Robotics and Automation (ICRA2002), pp.1539-1544, 2002.
- Tetsunari Inamura, Yoshihiko Nakamura, Iwaki Toshima, and Hideaki Ezaki : Mimesis Embodiment and Proto-symbol Acquisition for Humanoids, Proc. of Int'l Conf. on Advanced Intelligent Mechatronics (AIM 2001), pp.159-164, 2001.
- Tetsunari Inamura, Yoshihiko Nakamura, Hideaki Ezaki, and Iwaki Toshima : Imitation and Primitive Symbol Acquisition of Humanoids by the Integrated Mimesis Loop, Proc. of Int'l Conf. on Robotics and Automation (ICRA 2001), pp.4208-4213, 2001.
- Qiang Huang, Yoshihiko Nakamura and Tetsunari Inamura : Humanoids Walk with Feedforward Dynamic Pattern and Feedback Sensory Reflection, Proc. of Int'l Conf. on Robotics and Automation (ICRA 2001), pp.4220-4225, 2001.
- 稲邑 哲也,谷江 博昭,中村 仁彦 : 統計的行動認識・生成モデルの幾何空間における原始シンボルの発達と操作,電子情報通信学会 ニューロコンピューティング研究会,2003.
- Tetsunari Inamura, Hiroaki Tanie and Yoshihiko Nakamura : Proto-Symbol Development and Manipulation in the Geometry of Stochastic Model for Motion Generation and Recognition, Int'l Conf. on Intelligent Robots and Systems, Workshop on Birateral Paradigms of Human and Humanoid, 2003.
- 稲邑 哲也,谷江 博昭,中村 仁彦 : 統計的情報処理に基づく時系列データのキーフレーム抽出・認識・再生,第21回日本ロボット学会学術講演会,pp. 2J22,2003.
- 谷江 博昭,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 統計的情報量を用いた原始シンボル空間の構成とそれに基づく原始シンボル系列の記号化,第21回日本ロボット学会学術講演会,pp. 3K36,2003.
- 稲邑 哲也,谷江 博昭,中村 仁彦 : 運動パターンの認識/生成の単一モデルとそれにもとづく離散的階層化による行動知能の集積,人工知能学会全国大会(第17回)予稿集,pp. 3D4-04, 2003.
- 谷江 博昭,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 連続分布型HMMへの位相構造導入による全身運動を埋め込んだ原始シンボル空間構成法,人工知能学会全国大会(第17回)予稿集,pp. 3D4-03, 2003.
- 稲邑 哲也,谷江 博昭,中村仁彦 : 連続分布型隠れマルコフモデルを用いた時系列データのキーフレーム抽出とその復元,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2003講演論文集,pp. 2P1-3F-C6,2003.
- 稲邑 哲也,谷江 博昭,中村仁彦 : 隠れマルコフモデルによって抽象化された運動間の関係を記述する原始シンボル空間の構成,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2003講演論文集,pp. 2P2-3F-B2,2003.
- 谷江 博昭,稲邑 哲也,中村仁彦 : ミメシスの数学モデル:隠れマルコフモデルを用いた階層的原始シンボル空間における運動の認識と生成,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2003講演論文集,pp. 2P2-3F-B3,2003.
- 稲邑 哲也,中村 仁彦 : ミメシス原理にもとづく運動認識・生成から知能への接近−ミラーニューロンの発達モデル−,第8回ロボティクスシンポジア,pp. 246-251, 2003.
- 稲邑 哲也,中村 仁彦 : 行動認識/生成の双方向計算モデルの獲得とヒューマノイドへの応用,計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会予稿集,Vol II, pp.141-142, 2002.
- 稲邑 哲也,中村 仁彦 : 教示者と学習者の身体差を吸収するミラーニューロンモデル,第20回日本ロボット学会学術講演会予稿集,pp. 3H18, 2002.
- Tetsunari Inamura, Yoshihiko Nakamura and Iwaki Toshima : Acquiring Bi-directional Computation Model of Motion Recognition and Generation and Its Application to Humanoids, Workshop on Embodied Artificial Intelligence, Zurich, 2002.
- 稲邑 哲也,戸嶋 巌樹,中村 仁彦 : 行動の認識と生成の双方向計算モデルにおける行動要素の獲得,脳と心のメカニズム 第3回夏のワークショップ「知能発達のメカニズム」,2002.
- 稲邑 哲也,中村 仁彦 : 人間ロボット間の共同注意とそれに基づく経験的シンボル接地の統合モデル,ベイジアンネットセミナーBN2002,2002.
- 戸嶋 巌樹,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 連続・離散ハイブリッドHMMによる行動認識・獲得の同時学習モデル,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2002講演論文集,pp. 2A1-L05,2002.
- 石原 辰也,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 感覚系情報処理と運動系情報処理の相互作用による行動選択機構の実現,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2002講演論文集,pp. 2P1-K08,2002.
- 稲邑 哲也,戸嶋 巌樹,中村 仁彦 : ミメシスに基づくヒューマノイドの行動獲得と原始シンボルの創発,日本人工知能学会全国大会(第16回)予稿集,pp. 1D1-02, 2002.
- 稲邑 哲也 : 人間との対話に基づくロボットの行動知能形成,第4回情報論的学習理論ワークショップ・ベイジアンネットワークチュートリアル講演論文集,pp.33-41, 2001.
- 稲邑 哲也,中村 仁彦,下崎 守朗 : 連想記憶モデルを用いた行動認知と行動生成プロセスの統合,第19回日本ロボット学会学術講演会予稿集,pp. 1237-1238, 2001.
- 戸嶋 巌樹,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 関節間の相関演算による行動要素生成とHMMによる抽象化,第19回日本ロボット学会学術講演会予稿集,pp. 409-410, 2001.
- 下崎 守朗,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 連想記憶による全身行動パターンの認識,記憶,生成,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2001講演論文集,pp. 2P1-B11, 2001.
- 戸嶋 巌樹,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 力学的身体性を用いたミメシスの閉ループ化,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2001 講演論文集,pp. 1P1-D11, 2001.
- 稲邑 哲也,戸嶋 巌樹,江崎 秀明,中村 仁彦 : ミメシスループと原始シンボルを用いた全身行動の生成,第18回日本ロボット学会学術講演会予稿集,pp. 801-802, 2000.
- 戸嶋 巌樹,江崎 秀明,稲邑 哲也,中村 仁彦 : 他者行動の観察と自己行動要素による原始シンボルの生成,第18回日本ロボット学会学術講演会予稿集,pp. 803-804, 2000.
- 中村 仁彦,稲邑 哲也 : 脳型情報処理をおこなうヒューマノイドロボットの研究,第18回日本ロボット学会学術講演会予稿集,pp. 793-794, 2000.
受賞・特許
- 船井情報科学奨励賞
稲邑 哲也 :統計的手法に基づくヒューマノイドロボットの行動認識,生成,抽象化の研究」,2003年3月
- 2002年度人工知能学会全国大会優秀論文賞
稲邑 哲也,戸嶋 巌樹,中村 仁彦 : ミメシスに基づくヒューマノイドの行動獲
得と原始シンボルの創発,日本人工知能学会全国大会(第16回),2003年6月
メンバー
中村,稲邑,江崎,戸嶋,下崎,石原,谷江, 高野
(運動パターンの認識と生成を統一する統計的情報処理に関するご意見・ご質問はまで)