バックドライバビリティを備えたアクチュエータの開発

概要




  将来,ロボットはより日常に近い環境で,人と共に活躍することが期待されています. このようなロボットには,状況予測が困難な実環境と,ロボットが想定した仮定環境を克服するための柔軟性が必要となります. 私達は,ロボットに柔軟性を持たせるため,バックドライバビリティを備えたアクチュエータの開発を行っています.

  バックドライバビリティとはアクチュエータの入力軸と出力軸の力の双方向伝達能力のことです. 優れたバックドライバビリティを実現するためには動力伝達に伴う摩擦を大幅に減少させなければなりません. バックドライバビリティが実現できれば,アクチュエータの力感度が良くなり,衝撃などの素早い外力に対し機構的に対応し破損しにくくなるなどの利点を得ることができます.

  本研究では,電気静油圧アクチュエータ(もしくはハイドロスタティックトランスミッション)と呼ばれる油圧システムを用いて,バックドライバビリティを備えたアクチュエータを開発しました. これをヒューマノイドハンドに実装し,バックドライバビリティを備えたヒューマノイドハンドを開発しています.



UT-δ



  UT-δは20関節16自由度を持つ油圧駆動ヒューマノイドロボットハンドです.

  油圧駆動の利点である配置自由度の高さを生かし,動力源となる油圧ポンプを前腕部に, 出力を行う油圧モータを指関節に配置し,その間を柔らかいシリコンチューブによって接続することで動力を伝達しています. 各指先端部に静電容量型小型3軸力センサ,各指関節軸部に関節角度を計測するポテンショメータ,各油圧ポンプに油圧ポンプ―油圧モータ間の往復路の圧力差を計測する差圧センサを搭載しています.

  このハンドはバックドライバビリティ,及び歯車減速器では実現できない高い衝撃耐性を有し,また内界センサ情報から指関節のトルクや外力を推定することができます.



UT-δ2


  UT-δ2は15関節8自由度を持つ油圧駆動ヒューマノイドロボットハンドです.

  UT-δ2はさらなる性能の向上を目指し,様々な工夫が施されています. UT-δ2では,油圧ポンプと油圧モータを金属板に流路を掘った金属マニホールドを用いて一体化し,手の甲に群配置しています.これにより,油圧ポンプから油圧モータまでの管路を大幅に短縮し,管摩擦損失による圧力低下を防ぐと同時に,管路の耐圧性を高めています.

  この油圧モータの出力は低摩擦であるワイヤープーリ系を用いて,各指関節へ伝達されます.ワイヤープーリ系は摩耗により,ワイヤが破断する可能性を抱えていますが,UT-δ2は動力源である油圧ポンプと油圧モータに全てのセンサを搭載し,ハンド部であるワイヤプーリ伝達機構と動力源が容易に分離可能な構造になっています.これにより,ワイヤが破断した場合でも容易に交換が可能になり,また,メンテナンス性の向上,用途に応じたハンド部の交換などの利点を得ました.

  さらに,キャビテーション(オイルに気泡が生じる現象)を防ぐため,UT-δ2は動力源である油圧系に与圧を施すチャージポンプを搭載しています.

  UT-δ2は各油圧モータに磁気式小型エンコーダ及び圧力センサを,油圧ポンプに圧力センサを搭載しており,各センサの情報から指関節のトルクや外力を推定することができます.

  UT-δ2はUT-δ以上の高いバックドライバビリティ,衝撃耐性,トルク及び外力推定能力を備えています.




  • 小野惇也, 下山雄土, 甘利友也, 神永拓, 片山征大, 中村仁彦,"ワイヤ伝達機構が分離可能な油圧駆動ロボットハンド" , 第14回ロボティクスシンポジア, 2009.

  • 神永拓, 小野惇也, 中島佑輔, 中村仁彦,"バックドライバブルなヒューマノイドロボット用大出力液圧関節駆動機構の設計", 第9回 計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会論文集2008, 1K3-6, 2008.

  • 小野惇也, 神永拓, 中村仁彦,"キャビテーション抑制機構をもつHSTを用いた小型ロボットアクチュエータ" , 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2008, 1A1-B23, 2008.

  • 神永拓, 小野惇也, 山本泰地, 中村仁彦,"油圧動力伝達を用いたロボットの新アクチュエータ" , 第13回ロボティクスシンポジア, 2008.

  • 神永拓,山本泰地,小野惇也,中村仁彦,"ハイドロスタティックトランスミッションを用いた駆動機構を持つロボットハンドの開発" , 第25回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1L17, 2007.

  • 神永拓,山本泰地,小野惇也,中村仁彦,"ハイドロスタティックトランスミッションを用いた駆動機構を持つロボットハンドの開発" , 第13回日本IFToMM 会議シンポジウム前刷集, pp. 91-96, 2007.



受賞・特許
  • 計測自動制御学会 システムインテグレーション部門研究奨励賞
    神永拓, 小野惇也, 山本泰地, 中村仁彦,"油圧動力伝達を用いたロボットの新アクチュエータ" , 第13回ロボティクスシンポジア, 2008.

  • 日本ロボット学会研究奨励賞
    神永拓,"ハイドロスタティックトランスミッションを用いた駆動機構を持つロボットハンドの開発" , 第25回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1L17, 2007.


メンバー

神永拓 山本泰地 小野淳也 甘利友也 片山征大 下山雄土

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